管理監督者が推進すべき安全職場の仕組みづくり
目次
企業にとっての『安全』を知る
安全な職場をつくることは、企業に課せられた義務であり、絶対に避けては通れません。そして、安全な職場をつくるためには、管理者・監督者が果たすべき役割は非常に大切なものとなります。
本ページでは、管理者・監督者がどのような仕組みづくりを行なっていくべきなのか、その基本となる考え方・方向性について解説します。
企業目的と安全活動
まずは、「企業目的と安全活動」について確認しましょう。
会社とは何のためにあるのか?
会社とは何のためにあるのか?何を目的としているのか、考えた事ありますか?
地域貢献や社員の生活基盤安定、株主への配当等、様々な企業の「責任」「役割」はすぐ頭に浮かびますね。
責任や役割を果たす為には企業は存続しつづけなければなりません。と言う事は、収益を上げ続ける事、要するに『儲ける事』が最大の目的となります。
では、儲ける為に何をするべきなのでしょうか。もちろん売り上げを上げる等と言う意見もありますが、ものづくりの概念で最も優先して考えるべきは、「原価低減」、つまりコストダウンです。
そして、どうやって原価低減するのか、それは、ムダを排除することに他ならないのです。
広い意味での最悪のムダとは
職場には様々なムダがあります。広い意味での最悪のムダと言われているものがあります。
それは、労働災害、すなわちケガをする事で発生するコストです。企業においては、労働災害にかかる費用が最悪のムダであり、最大のリスクとして捉えなければなりません。
労働災害にかかる費用には次のようなものがあります。医療費や就業補償金等の人的損害、設備等の損失費や復旧費等の物的損害、停止損失や復旧費用等の生産損失、設備等の改造費や教育費等などの安全対策費等です。
皆さんの会社は労災での費用を予算化していますか。現実問題として反映している会社もあるでしょう。しかし、社員の不幸を想定した会社経営は考えさせられます。
企業は、災害ゼロを目指す事が大前提です。従って、安全活動は企業目的を果たすこととイコールであり、未来永劫やり続けなければならない活動の1つである事を改めて認識しなければいけません。
法令上のリスク
それでは次に、法令上のリスクについて確認しましょう。
安全配慮義務が定められている
企業には従業員への安全配慮義務が定められています。
事業者の法的責任は、労働安全衛生法や刑法、民法、労働保険法等様々です。これらの法律は、法改正が繰り返される度に、遵守するべき範囲や深さは広がるばかりです。
違反した場合には、重大な刑事罰・民事罰が科せられます。裁判事例も年々積みあげられ、企業のみならず管理・監督者への刑罰も事例として多々発生し続けています。
1つの労働災害がもたらす損害は、企業そのものを揺るがす事例も少なくありません。昔は大丈夫だったのに。それは現代では通じない世の中になった事は間違いないのです。
企業が最も優先すべきことは『従業員の命と健康を守る事』
ただ、ここで再確認したいのは、法律さえ守れば良いのかということです。
何の為に安全活動をするのでしょうか。法律を守る為ではありませんよね。法律上のリスクは認識しなければいけませんが、大切な事を忘れてはいけません。
それは、企業が最も優先すべき『従業員の命と健康を守る事』です。このことは強く再認識しながら、かつ法令上のリスクも捉えておく事が大切です。
安全第一とは何か
それでは次に、安全第一とは何か確認しましょう。
安全が第一、第二に品質、第三に生産
『安全第一』という言葉、良く聞きますよね。企業においては、安全が第一で、第二に品質、第三に生産です。これは西暦1900年頃、アメリカの大手鉄鋼会社USスチールのゲーリー社長が打ち出したことが発端と言われています。
では、なぜ今では全ての企業で『安全第一』が叫ばれるようになったのでしょうか?
全ての会社で『安全第一』が叫ばれるようになった訳
1900年当時の産業界では、生産第一、品質第二、安全第三でした。そのため労働災害や品質問題が頻発しており、これが経営を圧迫していたのです。
そこで、ゲーリー社長が方針を大きく変え、安全第一、品質第二、生産第三としました。すると、安全性や品質が向上した事で収益結果も大きく伸びることになりました。
明らかな成果を上げた事で周囲へも波及し、現在では全ての会社で『安全第一』が叫ばれるようになったのです。安全第一が企業目的である収益向上へもたらす成果を、産業の歴史が証明しているという事ですね。
安全は見えるのか
それでは次に、安全は見えるのかについて確認します。
安全は目に見える?
安全を見たことありますか?
例えば、時速10キロで走る車は安全でしょうか?
停止している設備は安全なのでしょうか?これらは一概に「はい」とは言えないですよね。
目で見えるのは、危険だけ
そう、安全は目で見えないのです。つまり、絶対的な安全は存在しません。
私たちの目で見えるのは、危険だけなのです。
危険を回避して安全に近づける事しかできない
では安全とは、どういった状態なのでしょうか。
安全とは、危険が限りなく少ない状態のことです。絶対安全は存在せず、危険を回避して安全に近づける事しかできないのです。
すなわち、私たちの周りには『危険しか存在しない』と言う事になります。
絶対安全が存在しない以上、私たちは安全な状態へ近づける活動を永続的に行なっていくことが必要不可欠なのです。
安全とヒューマンエラー
それでは次に、安全とヒューマンエラーについて確認しましょう。
人は必ずミスをする生き物
AIが進み未来は人の手が必要ない、と言う意見もありますが、削減できるだけで無くなることはありません。人は必ず介在します。
そして、人は必ずミスをする生き物です。多いか少ないかの違いがあるだけです。
要因としては、勘違いや物忘れ等、様々なことが挙げられます。
人の視覚は機械のように正確ではない
例えば、図のように長さAと長さBでは、一見長さBの方が長く見えませんか?
ですがこれ、実は長さAの方が長いのです。
この様な錯覚は日常生活で多く見受けられます。人の視覚は機械のように正確ではないのです。人間がこうした錯覚を起こすのも無理ない事であるという認識を持つ必要があります。
エピングハウスの忘却曲線とは?
またエピングハウスの忘却曲線でも証明されているように、人は時間が経つにつれて忘れる生き物です。
つまり、人は『忘れてしまう』生き物であることも前提として考えることが必要となります。
危険に気付けるようになるしかない
我々の周囲には危険しかありません。そして人はミスをし、物忘れをします。
それを前提とした時、危険から逃れケガをしない為にはどうすれば良いのでしょうか。
それは、危険に気付けるようになるしかありません。
日々鍛える必要がある3つのこと
危険に気付けるようになるには、次の3つを持つことが大切です。
それは、『知識』『経験』『感性』の3つです。
これらを日々鍛えることにより、危険に気付けるようになります。
そのためにも、日常的に形ある活動をし続ける事が必要不可欠ですよね。
全員参加と言うけれど・・・
それでは次に、安全活動における全員参加について確認しましょう。
良い仕組みをつくり全員参加で活動する
全員参加という言葉、これも良く聞きますね。良い安全活動を行なうためには、全員参加は絶対的に必要不可欠な条件です。
とは言え、実態としては、次のような口だけの全員参加となっているケースが少なくありません。
例えば、上司が部下に「全員参加だからな」と言うだけであったり、上司自身は何もやらないが部下に批評だけをぶつけるといった形です。全員参加と言う正論だけぶつける事、これでは絶対に災害ゼロは実現しません。
会社には必ず組織があり、役職が存在し責任を分担しています。そして、多くの場合、上層部やスタッフ部門で仕組みやルールを作ります。良い仕組みでは、役割が社員の階層や環境によって上手く分担されており、全員が少しづつ定期的に自然な行動にできるよう作られているのです。
ルールが守られない理由
そして、仕組みにはルールが不可欠であり、決めたルールに対して守れない理由は必ず分析するべきです。
守ってくれないのは、本当に部下のせいなのでしょうか?
ルールが守られない理由は次のように層別できます。
・ルールが無い
・ルールが間違っていた
・ルールを知らなかった
・ルールを守らなかった
・ルールを守れなかった
守られない理由はこのどれかに必ず入ります。この層別に照らし合わせながら、何度もなぜを繰り返すことが大切です。
管理・監督者は、全員参加で安全活動ができる環境づくりに向けて、以上のような考え方で推進していくことが求められるのです。
管理監督者が推進すべき安全職場の仕組みづくりまとめ
以上で学んだことをまとめてみましょう。
安全とは?安全第一とは?
- リスクを『ムダ』と認識し排除する事で企業目的へ貢献できる
- 企業経営において最も優先すべきは『人の命と健康を守る』こと
- 安全第一がもたらす成果は産業の歴史が証明している
- 絶対安全は存在しないため、危険を少なくし続ける事が安全な状態へ近づける唯一の方法である
- 絶対安全が無い以上『永続的な行動』が必要不可欠である
- 「全員参加」は大前提だが言うだけではダメ、管理・監督者の役割として『活動を回転させる為の管理』が必要である
いかがでしたか?安全職場をつくるために、管理監督者はどのようなことを考え、どのような仕組みを作るべきなのかイメージできましたか?
人の命と健康を守ることは、生産性よりも、品質よりも大切なことであると改めて認識し、現場の管理を行っていきましょう!
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