過剰在庫はなぜいけない?過剰在庫の7つの問題点と原因を解説
在庫とは
在庫とは、最終的に販売または使用することを目的として、保管・所有しているもののことです。お客様へ出荷・販売する前に保管・保有している完成品はもちろんのこと、加工途中の仕掛品・半製品、製品を生産するための原材料・部品も在庫として扱われます。
製造業では在庫を保有することは良くないこと、というイメージが強いかもしれませんが、在庫を保有することで生産量を確保し欠品を防いだり、予め在庫を作り貯め生産量を一定に保ち、無理な残業や稼働割れを防いだりすることができます。
在庫には必要な役割があるにも関わらず、なぜ在庫を多く抱えることが良くないと言われているのでしょうか。本記事では過剰在庫の問題点とその原因を解説します。
過剰在庫の問題点
前述したとおり、在庫には必要な役割があります。しかしそれと同時に、在庫を持つことによるデメリットも存在します。
以下、過剰在庫の7つの問題点を解説します。
資金回転率低下
在庫として仕入れた資材や商品は、販売することで初めて現金を回収することができます。いくら完成品の在庫を多く持っていたとしても、保管している間は資金にはならず、仕入れに使った現金の回収もできません。在庫としてため込み販売できない場合、お金が在庫として滞留するため、資金繰りが悪化してしまうことになり資金回転率が低下してしまうのです。
また、管理上は在庫という名目ですが、在庫は現金化されていない資産と同じです。不用意に在庫を抱えることで、課税対象として扱われることがあることも注意が必要です。
金利負担増大
材料や商品を購入する際借り入れをしている場合、金利(借入利息)を支払う必要があります。不要な在庫を持ちすぎてしまうことで、金利負担が増えてしまいます。
作業・運搬増大
在庫を抱える場合、保管のための作業や運搬など管理のための作業が必ず発生します。在庫の出し入れや棚卸などの細かな付帯作業は付加価値のないムダな作業と言えます。在庫を持つことで作業の工数が増えてしまうことも問題です。
スペースのムダ使い
在庫を持ちすぎれば、保管の為のスペースをムダに使ってしまいます。保管場所確保のために倉庫代等の費用がかかるだけでなく、倉庫管理のための人件費も問題としてとらえておかなければいけません。
エネルギー費増大
保管する為に空調等を使用する場合は、エネルギー費も在庫の量に比例して必要になってきます。電力のほかにも、運送に要する燃料費等その他の多くのエネルギー資源を浪費してしまいます。
陳腐化による廃棄
在庫が多くなれば、その分保管期間が長くなります。長期保管による経年劣化で陳腐化してしまうと商品価値が低下してしまいます。更に、最終的に廃棄ロスとなることになれば破棄のためのコストも含め大きな損失となります。
問題が隠れてしまう
過剰な在庫は、生産を阻害するような問題が発生した場合に、問題を表面化させず隠してしまう性質もあります。例えば、生産計画の精度が悪くても顧客に迷惑が掛からないために対策が遅れてしまったり、製品の破損や損失に対する危機意識が薄れてしまったりするケースです。問題に気づく機会を逃してしまうことも過剰在庫の問題点と言えます。
以上のような問題点が過剰在庫の引き起こす主な問題点と言えます。様々な角度から問題点を列挙しましたが、多くの問題は管理費に影響してくると言えます。
管理費は、平均で在庫総額の約25%発生するとも言われています。中でも人件費は10%程あり、在庫そのものの金額だけではなく、管理コストという視点からも在庫と向き合っていく必要があります。
在庫を過剰に持つことで、様々な問題が発生してしまうことを認識することが大切です。
なぜ在庫が増えてしまうのか。在庫が増える理由
では、なぜ在庫は増えてしまうのでしょうか?在庫増加の原因には、以下の7つがあげられます。
- 客先要求とリードタイムが合わない
- 見込みとのズレ
- ロットまとめ生産
- 歩留り、不良率が悪いことによる多めの生産
- 標準化ができていない
- 目標指標(稼働率、生産性、損益)達成の為の過剰生産
- 安心の為の在庫
原因①客先要求とリードタイムが合わない
調達リードタイムが長い、あるいは製造リードタイムが長い場合、客先要求に対応することが難しくなります。その分、在庫を余分に確保することで対応しなければならず、在庫が増える原因となります。
原因②見込みとのズレ
生産計画が予測と同期していない、計画修正の回数が少ない、見込みの精度が悪い、といった見込みの甘さが意図せず在庫を増やしてしまうこともあります。
原因③ロットのまとめ生産
ロット自体が大きいと、材料や部品の発注量が多くなります。当然、製造ロットも大きくなり、多く生産した分、製品在庫も過剰になりやすいといえます。
原因④歩留り、不良率が悪いことによる多めの生産
計画担当者が歩留りや不良率を知らなかったり、歩留り、不良率改善の取り組みが行われていなかったりすると、発注数以上の生産指示をすることになり在庫を増やす原因となってしまいます。
原因⑤標準化ができていない
部品・製品の標準化ができていなければ、様々なバラつきが生じてしまいます。
バラつきを埋めるために在庫を多く持つことに繋がってしまうのです。
原因⑥目標指標達成の為の過剰生産
目標指標の中に在庫削減に対する指標がない、あるいは在庫削減への取り組みがなければ、そもそも在庫に目が向きません。稼働率、生産性、損益等を重視した活動を行えば、過剰生産を行い、極度に在庫が増えることに繋がってしまう場合があります。
原因⑦安心の為の在庫
在庫基準が不明確あるいは適正でなかったり、在庫の状態が見える化できていなかったりすると、在庫に対する責任意識が薄い職場では欠品さえ起きなければよいという考えに陥りがちです。これも過剰在庫に繋がってしまう原因となります。
以上が在庫の増加原因です。
過剰在庫の原因の多くは、複数の部門が関係しており、なかなか改善が進みません。
部品不足のリスクと在庫最適化
カイゼンベースでは、製造業の企業様の業務改善をサポートさせていただく中で、在庫削減や在庫最適化に関するご相談をよくいただきます。最近では半導体不足などのサプライチェーンの乱れによる欠品問題への対応に関するご相談も多くいただいております。
「欠品へのリスクを抱えながら少ない在庫で管理するよりも、どんな状況になっても耐えうる量の在庫を確保することが重要ではないか」
調達に関係する部門の方からこのような疑問が上がってくることもあります。
たしかに、様々な要因から欠品へのリスクが高まっていることは事実です。過去と同じ考え方だけで在庫を管理することは、得策ではないと言わざるを得ません。
しかし、だからと言ってどんな部品や材料も在庫を多く持てば解決するわけではないことも忘れてはいけません。既に説明したように、在庫は問題を隠します。効率を下げます。ムダを上手く隠し非効率性を促してしまうことにより、結果的に現場の管理レベルを落としてしまうのです。
では、このような時代に、どのように在庫を管理していったらよいのでしょうか?
それは、「通常管理下の在庫」と「欠品リスク下の在庫」を明確に区分して管理することです。
通常管理下、つまりサプライチェーン上のリスクが小さい部品や材料に関しては、これまで通り、在庫管理手法を活用し、最適な(可能な限り最少な)在庫を持つように管理していきます。また、前後工程のラインバランスの改善(生産能力GAPの解消)等により、より少ない在庫を追求する活動を継続していきます。
一方、欠品リスクのある在庫に関しては、「戦略在庫」と位置づけ、サプライチェーンの乱れなどのリスクを考慮した在庫量の確保を行います。戦略在庫に位置付けられている間は、定期管理頻度(使用状況や正確な現在在庫数の把握)を上げます(場合によっては毎日管理します)。多少工数が掛かったとしても、常に先を読みながらリスクを減らすための必要な最善の努力を行います。
そして、市場環境が変化し、欠品リスクが下がった場合には、戦略在庫から外し、通常在庫として管理を行っていきます。
ちなみに、実は戦略在庫に位置付ける判断は意外と難しくないのですが、戦略在庫から外す判断が上手くできていないケースが多々あります。一度欠品リスクを味わった部品や材料には、心理的な不安が消えないことが1つの要因です。
そのため、例えば「入荷予定と入荷実績の乖離が〇%以内の期間が2か月以上続いたら戦略在庫から外す」などのように、あらかじめ基準を作っておくことが大切です。
市場環境の変化が大きい現代、一律な考え方や管理方法では変化に適応できません。在庫管理に関係する複数の部門の関係者の知恵や情報を活用し、柔軟かつ基本に忠実な在庫管理を継続することで、在庫最適化を目指していきましょう。
在庫管理について学ぶ!学習コースのご紹介
カイゼンベースの学習コースでは、在庫管理に関する具体的な内容を動画や理解度テストにより学習することが可能です。詳細の学習や実践でのご活用をご検討の方は、是非ご活用ください。
学習コースの概要「k3-51:在庫管理と在庫削減の進め方」
在庫管理の全体像、専門用語、在庫削減の考え方や進め方を身に付け、職場の困りごとを解決するために、日常活動やプロジェクト活動に取り組んでいきましょう!
学習コースの内容
Lesson1:在庫管理の重要性(前編)(8:07)
Lesson1:在庫管理の重要性(後編)(12:08)
Lesson2:在庫管理の進め方(前編)(11:21)
Lesson2:在庫管理の進め方(後編)(10:25)
Lesson3:発注方式と安全在庫(前編)(12:04)
Lesson3:発注方式と安全在庫(後編)(11:47)
Lesson4:ロケーション管理と在庫最適化(17:26)
学習コース情報
学習コース区分:法人向けコース・個人向けコース
受講対象者:全部門(係長,次長・課長)
動画再生時間:約1時間24分
想定学習時間:約2時間28分
教材の構成:動画コンテンツ7ケ,理解度確認テスト 各章5問,総合テスト 全20問
本コースは法人向け限定コースですが、
「Lesson1a:在庫管理の重要性(前編)」の動画はどなたでもご視聴頂けます。
「Lesson1b:在庫管理の重要性(後編)」の動画は無料会員登録を行うことでご視聴が可能になります。
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