フォロワーシップとは何か?製造業での重要性と成功事例を徹底解説

目次
現場の一人ひとりが主体性を持ち、リーダーを支えて組織の目標達成に貢献する――近年、この「フォロワーシップ」に注目が集まっています。製造業を中心に、従来のトップダウン型のマネジメントだけでは現場力を最大化できない場面が増え、現場社員のフォロワーシップ(支える力)が組織の成果を左右する重要な要素となっています。本記事では フォロワーシップとは何か を解説し、リーダーシップとの関係性、製造業での重要性、研修による育成方法、現場での成功事例、組織にもたらす効果、そして誤解されがちなポイントや具体的な言動例まで網羅的に紹介します。フォロワーシップの正しい理解と実践方法を把握し、組織力向上にぜひお役立てください。
フォロワーシップの定義と意味
フォロワーシップとは、一言でいえば「部下やメンバーが主体自律的にリーダーを支援し、チームの成果に貢献すること」です。この概念は米国カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授が著書『The Power of Followership(フォロワーシップの力)』の中で提唱したもので、組織で成果を出すために欠かせない考え方として広く知られるようになりました。例えば、リーダーの意思決定や行動に誤りや見落としがあれば勇気を持って進言し軌道修正を促したり、リーダーの手が回らない部分を自発的にサポートしたりする行為がフォロワーシップにあたります。単に指示を待って動くだけの「受け身の部下」ではなく、自ら考え行動してリーダーを支える積極的な姿勢がポイントです。
もう少し噛み砕いて言えば、フォロワーシップとは「現場の一人ひとりが主役となり、組織目標の達成に向けて上司やチームに主体的に働きかけること」です。決して「リーダーに言われたことを従順にこなすだけ」という意味ではありません。むしろフォロワーシップ=ただ服従することと捉えるのは誤解であり、真のフォロワーシップでは自分の役割範囲で考えうるベストを尽くし、必要に応じて提案や意見具申を行う主体性が重視されます。つまり、「イエスマン」ではなく「自発的なサポーター」となることがフォロワーシップの本質なのです。
ケリー教授の調査によれば、組織成果に対する影響力の割合はリーダーが10~20%、フォロワー(部下・メンバー)が80~90%とも言われています。この数字が示す通り、いくら優秀なリーダーがいてもフォロワーの力なくして組織の成果は最大化できません。裏を返せば、フォロワー一人ひとりの主体的な働きかけこそが組織パフォーマンスの大部分を支えているのです。リーダーシップと合わせてフォロワーシップにも目を向ける重要性が、ここからも読み取れるでしょう。
なお、似た言葉に「メンバーシップ」というものがあります。メンバーシップとは各人が自分の役割を果たして組織に貢献する姿勢を指し、こちらも組織運営に大切な考え方です。しかしフォロワーシップは特に「リーダーを支援する」という観点にフォーカスした概念であり、メンバーシップに加えてリーダーを積極的にフォローする行動が求められる点で異なります。平たく言えば、メンバーシップが「与えられた持ち場持ち場でしっかり働くこと」だとすれば、フォロワーシップは「その上でリーダーを助け、チーム全体の成功を後押しすること」なのです。
リーダーシップとの関係性(相互補完と違い)
フォロワーシップを語る上で、リーダーシップとの関係性にも触れておきましょう。リーダーシップとは組織やチームを率いて目標達成に導く力であり、ビジョンや方針を示してメンバーを動かす影響力を指します。一方でフォロワーシップは、リーダーの示す指示・ビジョンを受け止めて主体的に協力し、実現に向けて支援する力と言えます。組織運営においてリーダーが方向性を決め全体方針を示した後、その方針に沿って具体策を練り実行に移すのがフォロワーの役割です。プロジェクトが動き出せば、リーダーは全体を指揮・管理し、フォロワーは当事者意識を持って実務を遂行していきます。
このようにリーダーとフォロワーは上下の立場こそ違えど「同じ目標達成」に向かいお互いを補完し合う関係にあります。どちらか一方だけでは組織を動かす力は不十分であり、両輪が噛み合って初めて大きな成果を生み出せます。リーダーシップが強くてもフォロワーの協力がなければ机上の空論に終わりかねず、逆にフォロワーの意欲が高くてもリーダーが方針を示さなければ力が空回りしてしまいます。リーダーシップとフォロワーシップは車の両輪のようなもので、両者が正しく機能してこそチームはスムーズに前進できるのです。
また、多くのビジネスパーソンは立場によってリーダーにもフォロワーにもなり得ます。例えば中間管理職であれば、一般社員に対してはリーダーとして振る舞う一方、自らは部長や経営層のフォロワーとして支援に回る場面があります。製造業の工場長であれば、現場リーダーとして部下を率いると同時に、本社の経営陣に対してはフォロワーシップを発揮して方針実行を支える役割も担っているでしょう。フォロワーシップは部下だけに求められるものではなく、組織のあらゆる層で発揮されるべきものなのです。トップである社長でさえ、株主や取引先、あるいは現場からの声に耳を傾け柔軟に対応するフォロワーシップが求められる局面があります。組織の全員が自分の上司や周囲を支える意識を持つことで、相互に助け合う風土が生まれ強いチームワークが醸成されます。
フォロワーの5つのタイプを知る意義
ここで少し視点を変えて、フォロワー(部下・メンバー)のタイプについても触れておきます。ケリー教授はフォロワーシップの研究の中で、フォロワーを「批判的思考」と「積極的関与」の2軸で分類し5つのタイプに分けています。批判的思考とはリーダーの方針や指示に対し自分の頭で深く考え建設的に意見できる力、積極的関与とはリーダーの決定を前向きに捉え目標達成に向け協力・行動できる力です。この二軸の高低の組み合わせで以下の5タイプが定義されています。
- 模範型フォロワー(Exemplary follower)
批判的思考・積極的関与の両方が高い理想的なフォロワー。いわゆるリーダーの「右腕」であり、必要に応じてリーダーに建設的提言を行いつつ、決定した方針には率先して従い周囲をまとめることができます。リーダー不在時には代わりにチームを引っ張ることもできる存在です。 - 孤立型フォロワー(Alienated follower)
批判的思考は高いが積極的関与が低いタイプ。鋭い批判力や分析力を持ちますが、自らは動かず評論家的になりがちです。組織貢献意欲が低く協調性に欠けるためチームの輪を乱すこともありますが、その批判力自体は貴重なので、組織へのコミットメントを高めれば大きく貢献し得ます。 - 順応型フォロワー(Conformist follower)
批判的思考は低いが積極的関与が高いタイプ。指示されたことを素直に真面目に実行し安定した成果を出しますが、自分の意見を提案することはなく「指示待ち」になりやすい傾向です。リーダーにとって扱いやすい反面、リーダーの方針が誤っていてもそのまま従ってしまうリスクがあります。 - 消極型フォロワー(Passive follower)
批判的思考・積極的関与の両方が低いタイプ。自ら意見を持たず与えられた最低限の仕事しかしない受け身のメンバーです。モチベーションや責任感が欠如し、チームへの貢献度も低いため、仕事の意義を理解させたり良好な人間関係を築いたりする支援が必要です。 - 実務型フォロワー(Pragmatic follower)
批判的思考・積極的関与が中程度(平均的)でバランス型のタイプ。与えられた業務は着実にこなし一定の成果を上げる有能さがありますが、自分の範囲を超えて主体的に動くことは少なく、チャレンジ精神に欠ける傾向です。指示があればきちんとフォローするため組織貢献度は決して低くありませんが、更なる成長には背伸びした目標を課すなどの刺激が有効でしょう。
このように一口にフォロワーと言っても様々なタイプが存在します。理想は「模範型」ですが、現実には多くの組織で「順応型」や「実務型」が多数派かもしれません。大切なのは、メンバー各人の現状のタイプを見極めて適切に育成・支援することです。それぞれの強み・弱みを把握し、「順応型には意見発信の機会を増やす」「孤立型には組織目標へのコミットを促す」「消極型には成功体験を積ませる」などアプローチを工夫することで、フォロワーシップをより良い方向へ伸ばすことができます。こうした個々の成長がやがて組織全体の底力を押し上げることにつながるのです。
製造業におけるフォロワーシップの重要性
リーダーシップとフォロワーシップの基礎を理解したところで、特に製造業でフォロワーシップが重要視される理由を考えてみましょう。製造業の現場は日々刻々と状況が変化し、問題解決や改善の機会が常に存在します。こうした状況で現場力を発揮するには、現場の作業者一人ひとりが主体的に考え動くフォロワーシップが不可欠です。
まず背景にあるのが、ビジネス環境の変化と高度化です。モノづくりの現場は技術革新や市場ニーズの変化にさらされており、従来のトップダウン型の指示待ち姿勢では変化のスピードに追いつけなくなっています。一人のリーダーが全てを判断し指示するのには限界があり、複雑な現場対応には前線の従業員からのボトムアップの知恵が求められるのです。現代の製造業では、強力なカリスマリーダー一人に頼る組織よりも、メンバー全員がフォロワーシップを発揮して柔軟に対応できる組織が成果を上げやすいと言えます。
次に、管理職(リーダー)の業務負荷増大も重要なポイントです。多くの工場では、ライン長や現場監督といった中間管理職がプレイングマネージャーとして自身も生産業務を抱えながら部下を指導しているケースが見られます。人手不足などで管理者の負担が増す中、その手に負えない部分をカバーするフォロワーシップの発揮が不可欠になっています。現場メンバーが主体的に動いてくれれば、リーダーは雑務に追われず「リーダーにしかできない重要業務」に集中できます。結果として意思決定やマネジメント品質が向上し、組織全体の生産性アップに直結します。フォロワーシップは管理職の負担軽減とチームの総合力向上の両面で効果を発揮するのです。
さらに、職場の士気や風土という観点でもフォロワーシップは欠かせません。活気があり前向きな現場でこそフォロワーシップは機能しますが、上からの指示にイヤイヤ従うだけの「やらされ感」に満ちた職場ではフォロワーシップは絶対に発揮されません。製造現場で改善提案や自主的な動きを引き出すには、日頃からメンバーの意見を尊重し挑戦を奨励するオープンな雰囲気づくりが大切です。誰もが安心して発言・行動できる職場風土があってこそ、真のフォロワーシップは現場に根付くのです。
最後に、安全・品質の担保という面でもフォロワーシップは重要です。製造業では現場の些細な異変に気づけるのは最前線の作業者であることが多く、彼らが受け身で指示待ちのままだと不良の見落としやヒヤリハットの放置につながりかねません。現場のフォロワーが「おかしい」と思ったらすぐに指摘・改善提案できる状態であれば、事故や品質トラブルの未然防止に大きく寄与します。実際、トヨタ自動車などの自動車会社の工場で採用されている「ストップ活動(アンドン)」は、まさに作業者が異常に気づいた際に自主的にラインを止めて上長に知らせる仕組みであり、フォロワーシップを制度として促進する例と言えます。現場全員が主体的に品質・安全を守る意識を持つことが、製造業においてどれほど重要かは改めて言うまでもないでしょう。
このように、激動の環境変化・管理職の負荷増・職場風土・安全品質といった様々な理由から、製造業は特にフォロワーシップが求められる業界と言われることもあるくらいです。
では、具体的にフォロワーシップを現場に根付かせ高めていくには、どのような方法があるのでしょうか。次章では人材育成や研修の観点からアプローチを解説します。
フォロワーシップを高める育成・研修の方法
フォロワーシップは自然発生的に育つものもありますが、意識的な研修や育成施策によって醸成することも可能です。ここでは「フォロワーシップ研修」と呼ばれる教育手法や、日常のマネジメントでフォロワーシップを引き出す育成ポイントを紹介します。
1.フォロワーシップ研修の実施
まずはフォロワーシップの概念を組織に浸透させるための研修を行う方法です。座学研修やeラーニングを通じて、フォロワーシップの定義や重要性、具体的な行動例などを学習します。例えばカイゼンベースでは、アニメーション教材「アニメで学ぶ!組織を活かすフォロワーシップ」等のeラーニングコースを提供しており、短時間で要点をつかめるコンテンツで部下・社員のフォロワーシップ向上教育が可能です。研修では単なる知識提供だけでなく、グループ討議で「理想のフォロワー像」を話し合わせたり、現場で起こりがちなケーススタディを検討したりすると効果的です。「上司が方針を示したが部下は疑問を感じた。あなたが部下ならどう対応するか?」といったケースについて議論させれば、具体的にフォロワーシップ行動を考えるきっかけになります。研修を通じてメンバーが「受け身でなく自分から動くことが求められている」と腹落ちすることが第一歩です。
2.現場でのフォロワーシップ行動を促す仕組み作り
研修後の日常業務の中でフォロワーシップを伸ばしていく施策も重要です。例えば提案制度や改善活動を奨励し、現場から上がった意見・アイデアをきちんと採用・表彰する仕組みを整えると良いでしょう。製造業で言えばQCサークルやカイゼン提案制度はまさにフォロワーシップを引き出す代表的な仕組みです。上司の立場からは、「何か気づいたことはない?」「遠慮なく意見を聞かせてほしい」と日頃から声をかけて心理的安全性を高め、部下が発言しやすい雰囲気を作ります。また、権限委譲(エンパワーメント)も有効です。ある程度の範囲はメンバーに意思決定させたり、小さなリーダー役を順番に任せたりすることで、フォロワーである部下にもリーダー視点を持たせ主体性を引き出せます。こうした現場の仕掛けにより、研修で学んだフォロワーシップの考え方を実践に移しやすくなります。
3.各フォロワータイプに応じたコーチング
前章で述べたように、メンバーには様々なフォロワータイプがあります。それぞれのタイプに応じた働きかけでフォロワーシップを伸ばすことも効果的です。以下にタイプ別の育成ポイントを挙げます。
- 順応型フォロワーへの対応
指示通り動くが自分の意見を言わない順応型には、意見発信の機会を増やすことが有効です。会議や朝礼で順番に意見を求める、改善提案を書面で提出させる等、考えを表明する場を設けましょう。最初は小さな提案でも「助かった」「いい視点だね」とフィードバックし自信を付けさせれば、徐々に主体的な提案力が磨かれていきます。 - 孤立型フォロワーへの対応
批判力は高いが協力的でない孤立型には、組織への帰属意識と協調性を育むことが課題です。彼らの批判的思考自体は貴重なので、「君の分析力に期待している。一緒に現場を良くしていこう」と働きかけ、改善案の実行フェーズにも巻き込むようにします。協力して成果を出す成功体験を積めれば、批判屋から理想のフォロワーへと化ける可能性も大いにあります。 - 消極型フォロワーへの対応
モチベーションが低い消極型には、仕事の意義付けや動機づけが不可欠です。「この作業が誰にどんな価値を生むのか」「目標を達成するとどんなメリットがあるか」を丁寧に伝え、本人の興味や得意分野を活かせる役割を与えてみましょう。また業務外の不満(人間関係やプライベート)から意欲喪失しているケースもあるため、1on1ミーティング等で悩みを聞きフォローすることも有効です。少しずつでも前向きに取り組めるようになれば、チームへの貢献度が高まっていきます。 - 実務型フォロワーへの対応
与えられた仕事は堅実にこなす実務型には、あえて高い目標や新しい課題を与えてチャレンジを促すことが有効です。多少負荷が高いミッションに挑戦させ、達成できれば大きな自信につながります。その成功体験が主体性に火をつけ、模範型に近づく成長を遂げるでしょう。
このようにタイプ別の指導を行いつつ、共通して重要なのはフォロワーの良い行動を見逃さず承認・賞賛することです。例えば部下がリーダーの決定を皆に率先周知してくれたら「助かったよ、ありがとう」と伝える、上司に提案してくれたら「いい意見だね」と評価する、といった具合です。承認された行動は強化され、他のメンバーにも波及します。逆にせっかく意見を出しても上司が否定ばかりしていては、フォロワーシップは育ちません。リーダー自身もフォロワーを育てるリーダーシップを意識し、双方向のコミュニケーションを密にとることが大切です。
製造現場でのフォロワーシップ成功事例
実際にフォロワーシップが発揮されて成果につながった成功事例を見てみましょう。ここでは製造業の現場から2つの例を紹介します。
事例① トヨタ生産方式
フォロワーシップの成功事例として真っ先に挙げられるのがトヨタ自動車の現場力です。トヨタは従来の「上意下達」型の工場運営から脱却し、現場の知恵を最大限に活用する創造的フォロワーシップを根付かせた好例として知られています。現場作業員でも「おかしい」と思ったらラインを止めて改善策を提案する権限と雰囲気があり、カイゼン(改善)提案が日常的に行われています。実際、トヨタの強さについて前社長の豊田章男氏は「トヨタの強さは、現場の一人一人が考え、行動する力を持っていることです。これが私たちの考えるフォロワーシップの本質です。」と述べています。まさにトップ自らがフォロワーシップの重要性を認め、現場主導の改善を奨励しているのです。その結果として、トヨタでは生産性や品質向上の無数のアイデアが社員から生み出され、世界トップクラスの競争力を支える原動力となっています。トヨタ生産方式は「自働化」「ジャストインタイム」など様々な特徴がありますが、その根底には現場従業員の主体性(フォロワーシップ)への信頼があることは見逃せません。
事例② 中小工場での改善チーム活動
もう一つ、中堅規模の製造メーカーA社の事例です。A社では以前、現場の改善提案件数が低迷し、多くの作業者が指示待ちで受け身な状態でした。そこで工場長がフォロワーシップの重要性に着目し、全員参加の小集団改善活動をスタート。班ごとにリーダーではない一般社員が議長となって月1回のミーティングを運営し、職場の課題出しと対策立案を行う場を設けました。最初は発言が少なかったメンバーも、工場長自ら「提案歓迎だよ」「失敗してもいいからやってみよう」と背中を押し、提案が採用された際には部署横断で表彰するなどフォロワーの行動を徹底的に称賛・支援しました。その結果、1年後には提案件数が月数件から数十件に増加し、不良率も20%低減、生産リードタイムも10%短縮するという大きな成果が得られました。現場社員からは「自分の意見が採用されてやる気が出た」「リーダーだけでなく自分たちで工場を良くできると実感した」といった声が上がり、社員の主体性・当事者意識が飛躍的に向上しました。A社の工場長は「強力なリーダーシップではなく、皆が支えて動くフォロワーシップこそが現場を変革する武器だと実感した」と語っています。まさに組織風土改革にフォロワーシップを活用した成功例と言えるでしょう。
これらの事例からも分かるように、フォロワーシップを発揮した組織では現場から改善・改革が次々と生まれ、結果として大きな成果につながっています。製造業においてフォロワーシップを高めることは、単なる理論ではなく現場力向上の実践的な手段なのです。
フォロワーシップが組織にもたらす効果
フォロワーシップを組織に根付かせることで、具体的にどのような効果が得られるのか、ここで整理してみます。
- チームの成果向上・生産性向上
フォロワーシップによりメンバーが主体的に動く組織では、問題発見から解決までのスピードが格段に上がります。リーダー一人に頼らずメンバー各自が考えて行動するため、ボトルネックの解消や効率化のアイデアが豊富に出て生産性が向上します。前述の調査にもあったように、組織成果の8~9割はフォロワーの働きかけ次第とも言えるため、フォロワーシップが発揮されればされるほどチーム全体の業績が伸びていくでしょう。 - より良い意思決定とイノベーション
フォロワーがリーダーに意見提言し健全な議論が行われる組織は、意思決定の質が高まります。リーダーも様々な視点を得て判断できるためミスが減り、また斬新なアイデアが現場から上がることでイノベーションが創発されます。フォロワーシップは「上意下達では得られない気づき」をもたらし、組織を創造的に前進させる原動力ともなるのです。 - メンバーの成長と次世代リーダー育成
フォロワーシップを発揮する過程で、メンバー自身も成長します。上司に提言するために全体を俯瞰した視野が身についたり、リーダーと議論する中でマネジメント視点を学んだりできます。実際にフォロワーが提言を重ねることで「管理側の観点から物事を考える経験が増え、良い成長機会になる」とされています。このようにして育った主体性の高いメンバーは、やがて次のリーダー候補へと成長していきます。フォロワーシップの促進は長期的に見ればリーダーシップ人材の育成にもつながる、一石二鳥の効果があります。 - 組織エンゲージメント・モチベーション向上
自分の意見やアイデアが採用されチームに貢献できる実感を得られると、メンバーのエンゲージメント(愛着心)や仕事へのモチベーションは飛躍的に高まります。「自分も会社の成功に一役買っている」という当事者意識が、生き生きと働く原動力になるのです。その結果、組織全体が前向きな活気に満ちた雰囲気となり、離職率の低下や社員満足度の向上といった効果も期待できます。 - リーダーの負担軽減・リーダーシップ発揮の促進
部下がフォロワーシップを発揮し仕事を積極的に引き受けてくれると、リーダーは雑務に追われず本来注力すべきマネジメントや対外折衝などに集中できます。優れたリーダーシップを発揮しやすい環境が整うため、さらに組織全体の舵取りがうまくいく好循環が生まれます。このようにフォロワーシップとリーダーシップはお互いを高め合う関係であり、フォロワーシップが強い組織は結果的にリーダーシップも効果的に機能するのです。
以上のように、フォロワーシップは組織にもたらすメリットが非常に大きく、デメリットよりも圧倒的に上回ります。もっとも、「フォロワーシップが強調されすぎると部下の発言力が弱まるのでは?」と懸念する声もあるかもしれません。しかし真のフォロワーシップは決して個人の主張を押し殺すものではなく、むしろ各人が主体的に動くことで組織全体を見渡せる人材が増えるというポジティブな面が大きいのです。要はリーダーシップとフォロワーシップのバランスであり、両者が両輪として機能する組織こそが高いパフォーマンスを発揮します。次章ではフォロワーシップにまつわる誤解をいくつか取り上げ、正しい理解を深めましょう。
フォロワーシップに関するよくある誤解
フォロワーシップは比較的新しい概念であることから、いくつか誤解が生じやすい面もあります。ここでは代表的な誤解とその正しい理解を整理します。
誤解① 「フォロワーシップ=リーダーへの従順さ」
誤解の内容: 「フォロワーシップ」とは要するに上司の言うことをハイハイと聞いて従うことだ、と捉えてしまうケースです。日本語の「フォロワー(follower)」から「追随者」「言いなりになる人」というイメージを持つのかもしれません。
正しい理解: 前述の通り、フォロワーシップは盲目的な服従ではありません。むしろ自分の頭で考え、必要な時にはあえて異議や提案を述べる主体性こそ求められます。優れたフォロワーは決してただのイエスマンではなく、リーダーに建設的なフィードバックを行いチームの成功を最優先に動く存在です。「従順さ」より「主体性」「判断力」といった要素を重視する点がポイントです。
誤解② 「フォロワーシップは部下だけのもの」
誤解の内容: フォロワーシップというからには部下・平社員だけが身につけるものだ、管理職や経営者には関係ない、といった誤解です。
正しい理解: フォロワーシップは全ての階層に求められるものです。課長は部長のフォロワーであり、部長も役員のフォロワーであり…というように、人には必ず上司やステークホルダーが存在します。たとえ社長であっても、株主や顧客、社会の声に耳を傾け対応するフォロワーシップが必要です。むしろ上位者こそフォロワーの模範となる言動が求められます。例えば現場の声を無視せず取り入れる経営者は社員のフォロワーシップを引き出せますが、トップ自らフォロワーを軽視するようでは組織全体にフォロワーシップは根付きません。フォロワーシップは上下に関わらず組織人すべてに共通の能力・姿勢なのです。
誤解③ 「フォロワーシップを発揮=自己主張しないこと」
誤解の内容: フォロワーシップを発揮しようとして、自分の考えを押し殺しひたすら周囲に合わせることだと勘違いするケースがあります。例えば会議でも「従うのがフォロワーシップだから…」と発言を控えてしまうような場合です。
正しい理解: これは本末転倒で、発言しないフォロワーシップなどあり得ません。フォロワーシップでは「和を乱さない協調性」は大事ですが、それは結果としてチームの目標達成を最優先に考えるからこその協調です。単に静かに何も言わず我慢することではありません。むしろ問題があれば指摘する、改善案を提案する、といった建設的な主張が求められます。一方で最終決定が下れば、自分の意見が通らなかった場合でも切り替えてリーダーの決定を支持し行動に移す――このメリハリがあるのが真のフォロワーシップです。要は「言う時は言う」「従う時は従う」のバランスであり、単なる自己犠牲ではない点に注意が必要です。
誤解④ 「フォロワーシップがあればリーダーは不要」
誤解の内容: 極端なケースですが、「皆が主体的に動くならリーダーなんていらないのでは?」という誤解です。特にフラットな組織志向が強い現代ではこうした声も時折聞かれます。
正しい理解: フォロワーシップはリーダーシップと対になる概念であり、リーダー不在では成り立ちません。フォロワーの主体性が発揮されるためには、土台となるビジョンや方向性を示すリーダーシップが必須です。リーダーが道筋を示し、フォロワーがそれを受け止め具体化して推進することでチームは動きます。いわばリーダーが火種を起こし、フォロワーが風を送り炎を大きくするようなものです。リーダー不在でフォロワーだけでは、その炎をどこに向けていいか分からず組織は混乱してしまうでしょう。したがってフォロワーシップはあくまで良いリーダーシップあってこそ活きるものであり、「リーダーはいらない」という考えには繋がりません。
以上のように、フォロワーシップは決して「従属的・消極的になること」ではなく、むしろ「主体性と協調性をもって組織目標に貢献すること」だと再確認いただけたかと思います。誤解を解いて正しく理解すれば、自社で育成すべき人材像がよりクリアになるでしょう。
現場でのフォロワーシップの言動例
最後に、実際の職場でフォロワーシップが発揮されている具体的な言動の例をいくつか紹介します。現場でどのような振る舞いがフォロワーシップに当たるのか、イメージを掴んでみてください。
例1:率先して業務を引き受ける
製造現場でリーダーが手一杯の様子なら、フォロワーであるメンバーが「それは自分がやっておきます!」と声を上げて業務を肩代わりします。例えば設備点検や資料作成などリーダーでなくてもできる仕事を進んで引き受ければ、リーダーは本来業務に専念できチーム全体の生産性向上につながります。このように自分の立場で出来ることを考え実行する姿勢はフォロワーシップの基本と言えます。
例2:リーダーに建設的な提言をする
会議や朝礼でリーダーの方針説明に対し、フォロワーが「一点ご提案があります」と積極的に意見を述べる場面です。「○○のやり方ですが、現場的には△△も検討いただけないでしょうか?」といった具合に建設的な代案や疑問を投げかけることで、リーダーに新たな気づきを与え議論を深めます。フォロワーのこうした提言により健全な緊張感を持った議論が行われれば、チームの意思決定はより良いものとなるでしょう。提言するフォロワー自身も、リーダーと対話を重ねる中で経営視点が養われ成長につながります。
例3:組織全体の利益を最優先に考える
フォロワーシップを発揮する人は、自部署や自分個人の利益だけでなく会社全体の目標達成を第一に行動します。例えば生産現場で納期遅延の恐れが出てきた際、「自分の持ち場は問題ないから関係ない」ではなく、他ラインを手伝ったり他部署と連携したりと組織全体を見据えて動きます。リーダーの指示の意図を正しく理解しメンバーに共有して回るのもフォロワーの大事な役目です。このように視野広く振る舞うことでチーム全体のパフォーマンス向上に寄与しますし、結果として自身のリーダーシップ能力も鍛えられていきます。
例4:リーダーの最終決定を受け入れ支持する
フォロワーは議論の中で自分の意見を述べつつも、最終的にリーダーが下した決定はしっかり受け入れ支持することが大切です。例えば会議で自分は反対意見だった案件でも、決定後は「○○でいきましょう。皆さん協力お願いします!」と自ら周囲に共有し率先して動きます。このようにリーダーの決定をフォロワー自身が周りに伝えて回れば、メンバーも安心して従うことができます。決定前にとことん議論に参加し、決まったら一致団結する――その切り替えの良さが優れたフォロワーシップの表れです。
例5:未来志向でポジティブな言動をする
フォロワーシップを持つ人は常に未来志向でチームに前向きな影響を与えます。例えば不具合が発生しても過度に悲観せず「今回の反省を次に活かしましょう。次はもっと良くできます!」と励ましの言葉を発したり、過去ではなく未来の目標に焦点を当てた発言をします。人間は感情に左右されがちですが、フォロワーが未来を見据えてポジティブな行動を取ればチーム内に明るい希望が生まれ、組織全体がいきいきとしてきます。リーダーが沈みがちな時に「大丈夫です、やってみましょう!」と背中を押すのもフォロワーの重要な役割でしょう。
以上のような言動は、フォロワーシップを体現する典型例です。これらを参考に、自社の現場で「あの社員はフォロワーシップがあるな」と思い当たる人を探してみてください。そして逆に自分自身が部下や上司に対してこれらの行動を取れているか振り返ってみるのも良いでしょう。フォロワーシップは小さな一歩からでも実践できます。明日から職場でぜひ意識してみてください。
まとめ:組織にフォロワーシップを根付かせよう
フォロワーシップの意味や重要性、具体的な育成方法や事例まで見てきました。リーダーを支え、組織の成果を最大化するフォロワーシップは、製造業のみならずあらゆる組織でこれから益々求められる考え方です。変化の激しい時代にあって、一人の卓越したリーダーに頼る組織運営はリスクが高く、現場の全員が主体性を発揮してこそ持続的な成長が可能となります。ぜひ本記事の内容を踏まえ、貴社の現場力強化や人材育成にフォロワーシップの視点を取り入れてみてください。
フォロワーシップについて学ぶ!学習コースのご紹介
カイゼンベースの学習コースでは、フォロワーシップに関する具体的な内容を動画や理解度テストにより学習することが可能です。詳細の学習や実践でのご活用をご検討の方は、是非ご活用ください。
学習コースの概要「hs-05:アニメで学ぶ組織を活かすフォロワーシップ」
組織で成果を出し、成功するためには不可欠なフォロワーシップについて学習するコースです。フォロワーシップに関する基礎を学び、チーム活動へのさらなる貢献を目指します。
学習コースの詳細
Lesson1:フォロワーシップとは?(7分)
Lesson2:フォロワーシップの重要性(8分)
Lesson3:5つのフォロワータイプ(7分)
Lesson4:フォロワーシップを実践するポイント(7分)
「Lesson1:フォロワーシップとは?」の動画はどなたでもご視聴頂けます。
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